2018年10月1日

インタビュー 慶應義塾大学理工学部 山口 高平 氏

AI研究の第一人者であり、人工知能学会の会長も務められた山口高平氏にこれまでのキャリア、そして、AIの果たす役割について伺いました。インタビュアーは日本能率協会、小関俊洋です。(以下敬称略)

「知能共進化」型AIを目指して

――― 山口先生のされている研究について教えていただけますか?

人間とロボットが協力しあうようなAI、つまり「知能共進化」型AIを研究しています。
Pepperのようなコミュニケーションロボットが開発されるようになり、AIは私たちの身近な存在になりましたが、残念ながら、人間とロボットが自由にコミュニケーションするようにはなっていません。
例えば、Peppeと対話すると、Pepperはこちらに自由に発言する機会を与えてくれるわけではないことに気づきます。Pepperの発言に対して回答するように、強引に引き込もうとします。これはPepperが想定されているシナリオ範囲内でしか対応できないからです。ある決まった文脈の中でコミュニケーションしようとします。人間のように相手に対して、自由かつ柔軟に対応することはできないわけです。

このように現状では、ロボットと人間の間のコミュニケーションにはまだまだ課題があります。逆に言えば、大きな可能性を秘めていると言えるかもしれません。
私は、これからは知覚処理と知識処理を統合するコミュニケーション型AIが重要になっていくのではないかと考えています。将来的には、人も機械もお互いに学びあって、共に進化していくことが可能なのではないか。
そんなことを考えて、研究を進めています。

人間がロボットに指示する方法にも課題があります。ロボットに指示を与えるためにはプログラミングが必要となり、どうしても専門的になってしまい、一般の人は扱うことができません。

それに対応するために、言葉の指示がプログラムコードに自動変換されるツールを開発しました。「PRINTEPS」と言いますが、このツールは、知識推論・音声対話・人と物体の画像センシング・動作という4 種類の要素知能を統合した総合知能アプリを目指しています。一般の人が設計段階から参加し、AIアプリケーションを段階的に開発できるようにしたいのです。

記号処理が研究の原点

――― 先生は、なぜAIを研究するようになったのですか?

大学は大阪大学工学部通信工学部だったのですが、そこで阪大産業科学研究所の溝口先生に誘われて、卒業後もAIの研究を進めることになりました。当時は今のように、AIは注目されている分野ではありませんでしたが、学生時代に「定理証明人工知能」について勉強していて、数学の定理を証明するためにコンピュータを活用できないか研究をしていたんです。

溝口先生のAIグループでは、今の研究につながるAIの活用方法を研究しました。エキスパートシステムと言うのですが、専門的な知識をコンピュータに記憶させて、コンピュータが自動的に解決するシステムになります。

たくさんの企業さんと協力しながら、プロジェクトを進めたことを覚えています。製造業では、熟練の作業者が今までの経験を元に、専門的な知識を持っています。そういった技術者に話を聞き、その知識をプログラム化することに取り組んだのです。
エキスパートシステムでは、法律の人工知能にも取り組みました。「国際統一売買法」という契約法があるのですが、そのシステム作りを進めたんです。法学を専門にされている先生やAIの専門家とチームを組んだプロジェクトでした。このシステムを構築することで、正確かつ迅速な対応ができるようになることを目指しました。その後は、データマイニングにも取り組みました。データマイニングとは、膨大なデータから有益な情報を発掘(マイニング)する技術のことです。

今まで私が取り組んできたのは、たくさんのテキストから記号や知識を構造化し、コンピュータがその情報を扱うことができるようにすることでした。このような記号処理の研究が私のバックボーンとなっています。

人間とAIの協働こそが求められている

――― 人口減少が進む日本では、多くの人がAIに期待しています。
しかし、一方で、人間の職が奪われると危惧している人もいます。AIはどのように役立っていくのでしょうか?

コンピュータは認識可能な情報を大量に扱うことに優れています。計算力やデータの蓄積について、人間より優れていると言っていいかもしれません。しかし、人間は抽象化して思考、判断することができます。その面ではコンピュータはかないません。

従って、人間がおこなっている仕事の全てがAIに置き換わるというのはいかにも早急な議論だと思います。どんな仕事でも人間が必要な部分があります。もちろん、業務の中でAIに任せることができる分野はこれからもどんどん増えていくでしょう。しかし、それは人間とAIが協力してこそ実現するのだと思います。

その実現のために引き続き、この研究を進めていきます。AIが人間の仕事をサポートし、生産性や創造性を向上させる。そうなれば、人間がAIに指示するだけではなく、逆にAIの行動が人間の行動に影響与えることもあるかもしれません。それが私の進める「知能共進化」です。

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