2018年5月16日

コーディネータインタビュー 産業技術総合研究所 杉村 領一 氏

2016年12月に開催された「AI・ビッグデータ活用フォーラム」では、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 杉村 領一博士にコーディネータを努めていただきました。7月2日に大阪で開催に開催される「AI・ビッグデータ活用フォーラム」を前に、AIの現状と大阪大会に期待することを日本能率協会、小関 俊洋が伺いました。(以下敬称略)

AIをめぐる状況は?

(小関)
お立場とお仕事の内容を教えていただけますか?

(杉村)
産業技術総合研究所でイノベーションコーディネーターをしています。「イノベーションコーディネーター」というのは、産業技術総合研究所の研究をビジネス領域に橋渡しする役割で、ひらたく言えば、いろんな会社さんと共同研究を企画したり、研究所にある技術を世の中で活用するように紹介しています。付随して、AI技術に関する講演や論文の寄稿もしています。
私の場合は、これらの業務に加えて、海外との連携支援もおこなっています。また、「ISO/IEC JTC 1」という国際標準化団体があるのですが、この団体の参加のSC 42という委員会で,AIの標準化が開始されており、SC 42の日本国内の専門委員会の委員長を拝命し標準化に取り組んでいます。

(小関)
「ISO/IEC JTC 1/SC 42」の役割とは何ですか。AIの倫理的な規定を決めているのでしょうか?

(杉村)
「JTC 1」とは「Joint Technical Committee 1」のことで、技術標準を作るのが主な役割になります。その参加の委員会の一つがSC 42です。最近、委員会で議論したばかりですが、倫理や社会価値は、現時点では、技術では語れない部分になりますから、この委員会では扱わない方向です。基本的には、技術に関わる範囲で議論しようということになっています。

(小関)
2016年12月の「AI・ビッグデータ活用フォーラム」で、杉村さんにはコーディネータをお務めいただきました。その時から1年半が経ちましたが、AIはどのように変化しているのでしょうか?

(杉村)
今は「よくわからないのだけれども、とりあえずAIをやりたい」という人がほとんどいなくなりました。以前は、そういう方が産業技術総合研究所にいらっしゃることがよくあった。今は、自分たちでデータを使って分析できる人が育ってきて、持っているデータから何かを引き出せないか取り組んでいる人が増えた。
データ活用に対する関心はますます増しています。産業技術総合研究所には「人工知能技術コンソーシアム」というデータ解析や人工知能の応用を研究している集まりがあります。以前は60 ~ 70社しか参加している会社はなかった。しかし、今は140社以上も集まっています。いろんな意味で土壌ができてきている。産業技術総合研究所が初歩的な内容でお手伝いすることはなくなってきています。少しずつ、世の中でAIやビッグデータを本当に活用し始めた。そんな気がしています。

(小関)
実用化が進んでいるということでしょうか?

(杉村)
そうですね。私たち産業技術総合研究所以外にも実用化に取り組む企業がでてきています。広がっているのは間違いありません。産業技術総合研究所は、むしろその先にある最先端の技術に取り組まなければならない状況です。できないことはまだたくさんありますが、データをビジネスに活用すれば効果が上がる。そのことに気づいたところが活用し始めている。そんな状況だと思います。

(小関)
高度な計算処理ができるようになったことも大きいのでしょうか?

(杉村)
計算機が安くなり、またセンサーも大量に使われるようになって、安く手に入るようになった。ネットワークについても、いろんな通信形態ができている。ビジネスは結局、コストパフォーマンスです。環境が整ったおかげで導入しやすくなっていると思います。

人財を育てるためには?

(小関)
7月に開催される「AI・ビッグデータ活用フォーラム」のテーマは「AI人財の採用と育成」です。 人財の現状についてはいかがですか?

(杉村)
世界的にAI人財が不足しているのは事実です。以前は、この分野は日本の大学では人気がなく、学生が集まらなかった。10年前は「機械学習のコースをやっても、学生がこない」と大学の先生が言っていた。ところが今は機械学習の講義には学生があふれています。今は人気になりましたが、そんなにすぐに人は育たないから、世界中で取り合いになっています。どこも優秀な人財の確保が頭痛のタネです。

(小関)
特に日本は報酬面などで人財確保が難しいと思いますが?

(杉村)
そういう意味では日本全体がマズイ状況になっています。問題は、それが日本だけにいるとわからないことです。例えば、日本だけが名目賃金が全然上がっていなくて、それ以外の先進国は上がってきている。以前、海外の技術者と話をしたことがありますが、報酬が日本と全然違う。桁が違ってました。
その実態を国内の経営者がわかっていない。特にソフトウェア関係の賃金が低い。海外の優秀なプログラマーやアーキテクトと言われる人たちは高い報酬を得ています。報酬面だけとっても日本は負けているのだけれども、負けていることを日本は分かっていない。それが一番の問題なのかもしれません。
人財獲得競争という意味では、賃金だけでは太刀打ちできません。このままでは安い労働だけを日本ですることになってしまう。「新しく設計する」という仕事が日本にこなくなってしまう。その一方で、中国などの技術力は非常に進んでいる。厳しい状況になってきていると感じます。

(小関)
人財育成についてはいかがでしょうか?

(杉村)
やらなければいけないのは、教育システムやカリキュラムの整備だと思います。普通の人が受ければ、必ず一定のレベルに到達できるような教育システムやカリキュラムが求められているのではないでしょうか。移民がたくさんいる文化と単一文化には差があって、アメリカではわかりにくい授業をする先生は受け入れられません。「難しくてわからない」ではダメで、「わかりやすく伝えること」ができる先生が評価されます。誰でもわかるコースを作ることが必要なのではないかと思います。

(小関)
7月2日のフォーラムに参加される方へのメッセージをお願いします。

(杉村)
AIのことを活発に発信している会社さんが発表をされますので、私自身もどのような話が聞けるのか非常に楽しみにしています。
テーマである人財に関して言えば、新しい工夫が必要になっています。AIが扱う分野は領域横断的で、会社のあらゆる仕事に関係している。横断的な知見を持った人財をどうやって育てるか。各社の工夫のしどころだと思います。
「あの会社で働けば、自分のキャリアにとても役に立つ」となれば人は集まるでしょう。会社は魅力的なキャリアパスを提供せざる得ない状況になっているわけです。これは産業技術総合研究所も同じです。海外との接点を増やしていますが、これも「産業技術総合研究所に入れば、知見が広がる」ということを狙っているからです。大阪でのフォーラムでは、各社の具体的な取り組みについて話が聞けるのではないかと期待しています。

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